【弁護士コラム】法人が破産手続きをするのはどんな場合?誰ができる
破産手続開始申立を行うために必要な
「実体的要件」と「形式要件」とは
資金繰りがつかず、これ以上事業を継続していくのは難しい・・・「破産手続き」というのを聞いた事があるけれど、その申立てはどんな場合にできるのでしょうか?
いくら以上の負債があれば破産手続きができるなど、負債の金額に、なにか決まりがあるのでしょうか?
誰が破産手続開始の申立てをできるのでしょうか?
目次
✓ 破産手続開始申立ての形式的要件
※なお、本ページにおける「法人」は、合名会社及び合資会社を除きます。
「破産手続開始申立ての実体的要件」を短くまとめると…
法人の破産原因として法律で定められているのは、①支払不能と②債務超過であり、これらの破産原因がある場合に、裁判所に申し立てることによって破産手続きが開始されます。
「破産手続開始申立ての形式的要件」を短くまとめると…
破産手続開始申立ては、申立権を有する者が、正しい申立の形式で、適切な裁判所に対して申し立てを行う必要があります。また、裁判所に対し、破産の費用を納める必要があります。
破産手続開始申立てとは
破産手続きを行うためには、裁判所に対して、破産手続を開始するよう申立てをする必要があります(ここでは、この申立てを、「破産手続開始申立て」と呼びます。)。
この申立てがあると、裁判所は「破産原因」の有無を審理し、「破産原因」があると判断すると、原則として破産手続開始決定を行います。
つまり、破産手続きを行うためには、「破産原因」があることが必要です。
また、破産手続開始申立てをするにあたっては、申立権者が、書面に法定の必要事項を記載し、裁判所に対して手続きにかかる費用を納めるなど、所定の方式に則って行う必要があります。
破産開始決定によって、開始決定当時に破産者が所有していた財産は破産財団となり、通常は、裁判所が選任した破産管財人の管理に服することになります。
ただし、例えば小規模な個人事業者については、破産財団(※)が破産手続費用に不足するときは、管財人を選任することなく、破産手続開始決定と同時に破産手続の廃止決定がなされ、手続きが終了することもあります。
※破産財団とは?
「破産財団」とは、破産者の財産または相続財産もしくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいいます。逆に言えば、破産管財人が管理処分する権利の無い「自由財産」は、破産財団を構成しません。そのため、自由財産か破産財団かの区別は、破産者にとって非常に大きな関心事になります。
破産手続きを開始する要件となる実体的要件「破産原因」とは
破産原因は、破産法で定められています。
法人の場合、具体的には、①支払不能と、②債務超過があります。これらの原因がない場合には、破産手続開始申立てをしても、破産手続開始決定はされません。
また、破産するに際して、「○○円以上の債務がなければ破産手続きはできない。」などの決まりはありません。従って、破産手続きが開始するためには、原則として、申立を受けた裁判所が、債務者が支払い不能や債務超過の状態にあると判断すればよく、負債の具体的な金額は問題になりません。
但し、負債の金額によって、債務者が裁判所に対して納付する破産手続の費用(「予納金」と呼ばれます。)の額が変わることがあります。
支払不能・債務超過とは
支払不能とは、破産法で、「債務者が、支払い能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」と定められています。
簡単に言えば、広く債務が弁済できない状態をいいます。
なお、債務者について「支払停止」があった場合には,その債務者は支払不能であることが推定されます。
「支払停止」とは、「債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」とされています。
具体的には、弁済を停止する旨の通知を債権者に送付することや、2回目の手形不渡りによる銀行取引停止処分を受けたことなどが該当するとされています。
債務超過とは、破産法で、「債務者が、その債務につき、その財産を持って完済することができない状態」と定められています。
簡単に言えば、債務額がプラスの財産額を超える状態をいいます。
支払不能と債務超過は、一見似ているようにも見えますが、例えば、債務の総額が会社の総資産を超えていても、信用があり融資を受けることが可能で、融資により弁済期にある債務の弁済をすることができるのであれば、債務超過ではありますが、支払不能の状態とは言えません。
また、会社が債務額を上回る資産を有していても、それを換金できずに弁済期にある債務の支払いができないのであれば、債務超過ではないけれども支払不能の状態にあることになります。
破産手続開始申立ての形式的要件とは
法人が破産手続開始申立てを行う場合、申立権がある申立人が、申立ての方式に不備がなく、正しい管轄の裁判所へ申立てを行い、破産手続きにかかる手数料を納める必要があります。
※その他に、「債務者に破産能力があること」が必要とされますが、この点が問題になることは極めてまれであることから、本ページでは説明を省略します。
これらを、破産手続開始申立ての形式的要件といいます。
以下では、特に、「法人破産の場合、破産手続開始申立てをすることができる申立権者とは誰なのか」と「法人破産の場合の破産手続開始申立ての裁判管轄」について解説します。
法人破産の場合の破産手続開始申立権者とは
法人破産において最も一般的なのは、法人が「自己破産」をする場合です。法人が「自己破産」をする場合には、法人は、自らの意思決定に基づいて、法人代表者が申立てを行うことになります。
例えば株式会社の場合、具体的には、原則として、取締役会設置会社の場合には取締役会決議が、取締役会非設置会社の場合は,取締役の過半数の同意が必要になり、申立を行うにあたり、これらの取締役会議事録ないし取締役の同意書を裁判所へ提出することになります。
ただし、特に中小企業の場合、会社代表者が失踪して所在不明であるなど、法人自身が申立人となることができないことがあります。
このような場合、新代表者を選任するという手段もありますが、それも困難な場合には、取締役、理事又は業務執行社員がいる場合には、その者が個人として法人の破産を申し立てるという方法もあります。
このような申立てを、「準自己破産」といいます。
これらに対し、法人の債権者が法人の破産を申し立てることも可能です、このような申立ては、「債権者申立て」と呼ばれますが、一般的に裁判所に対して納める費用が高額になったり、債務者たる法人の審尋が行われることがあるなど、「自己破産」の申立てに比して手続き上注意を要する点が多いため、申立てには慎重な判断が必要です。
法人破産の場合の破産手続開始申立ての裁判管轄とは
まず、破産手続開始申立ては、「地方裁判所」へ行うことが法律で決まっています。
裁判所には、「簡易裁判所」や「家庭裁判所」など、「地方裁判所」ではない裁判所もありますが、破産手続開始申立てに関しては、「地方裁判所」へ申立てをする必要があります。
次に、「地方裁判所」であればどの「地方裁判所」でも良いかというと、そうではありません。
どの地域の「地方裁判所」に申し立てるべきかについても、法律で定められています。
法人破産の場合、最もわかりやすいのは、法人の主たる営業所の所在地を管轄する「地方裁判所」です。
例えば、埼玉県越谷市に主たる営業所を有している法人については、「さいたま地方裁判所越谷支部」となります。
ただし、この原則には例外があり、親子関係にある会社の破産事件係属の有無、法人代表者の破産事件係属の有無、債権者の数等によっては、他の「地方裁判所」への申立てを行うことができる場合もあります。
まとめ
以上の通り、法人が破産手続開始申立てをするためには、支払不能・債務超過であることが必要です。また、申立権者を確認し、法令の定めに従った適切な書類を作成し、管轄を有する裁判所へ提出する必要があります。
破産はもともと難解な手続きであるうえ、法人破産の場合は、取引先や従業員が存在するなど債権債務関係や財産関係が個人破産の場合よりも複雑なことが多いことから、実際に破産を申し立てる場合、法人の代表者ご本人の独力で書類を作成して手続きを遂行することは、かなり難しいと言えます。
資金繰りの問題から事業継続が難しいなど、破産の可能性が視野に入ってきた場合には、可能な限り早く、専門家である弁護士にご相談することをお勧めします。
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この記事の監修者
弁護士 星野 彩子
注力分野:法人破産,個人破産,個人再生
神奈川県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。埼玉弁護士会所属。
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