自己破産すると生活保護は受けられない?気になる疑問を弁護士が解説

悩む男性

 借金が膨らみ、返済の目途が立たない状況に陥ると、精神的に大きな負担となります。
 「借金を返済できないまま日々が過ぎていく」「このままでは生活が成り立たない」といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。さらに、収入が少なく生活に困窮している場合、日々の暮らしを維持することさえ難しくなります。
 本記事では、自己破産と生活保護の関係や、よくある疑問、それぞれの手続方法について解説します。借金問題と生活苦を抱える方が、適切な制度を活用し、ご自身の状況に合った解決策を見つけるための参考にしてみてください。

 


 

1 自己破産とは

 自己破産とは、借金の返済が困難になった場合に、裁判所を通じて借金の返済義務を免除してもらう法的な手続です。滞納税金など一部例外を除き、ほぼ全ての借金が免除されるため、生活を再建するための有効な手段と言えます。
 
 自己破産の最大のメリットは、借金返済の義務がなくなることです。これにより、取立てや返済のプレッシャーから解放され、経済的および精神的な安定を取り戻すことができます。
 
 一方で、財産の一部が処分されることや、一定期間クレジットカードやローンが利用できなくなるといったデメリットもあります。しかし、最低限の生活に必要な財産は保持できるため、生活が成り立たなくなるわけではありません。自己破産は、借金の重圧から解放され、新たな人生を歩むための有効な手段のひとつです。

 

2 生活保護とは

 生活保護とは、経済的に困窮し、自力で生活を維持することが難しい人を対象に、国が最低限の生活を保障する制度です。憲法第25条に基づき、すべての国民が健康で文化的な生活を送る権利(生存権)を守るために設けられています。生活に困窮する理由はさまざまですが、病気や障害、高齢などで働きたくても働けない、または働いても収入が最低生活費に満たない場合などに適用されることが多いです。

 

2-1. 生活保護の受給条件

 生活保護を受けるためには、以下のような条件を満たす必要があります。これらの条件を満たしているかどうかは、福祉事務所が調査したうえで判断されます。詳細は福祉事務所へのご相談をおすすめします。

  • 資産がないこと(預貯金など)
  • 所得が最低生活費を下回っていること
  • 働くことが可能な方は、できる限り働いていること
  • 扶養義務者(親族など)からの援助を受けられないこと

 

参考 厚生労働省|生活保護制度

 

2-2. 生活保護受給中の遵守事項

生活保護を受けている間は、以下のようなルールがあります。生活保護は「国民の権利」ではありますが、利用するには一定の条件を満たし、適切な手続を行う必要があります。

 

収入等の申告義務

 収入の申告やその他生活状況に変動があった際は届出をしなければなりません。

 

訪問調査

 定期的なケースワーカーによる調査や、生活に関する指導や指示が行われます。

 

不正受給の禁止

 虚偽の申請により生活保護費を受給した場合、返還を求められます。保護費の返還に加えて加算金を徴収されるケースもあります。

 

参考 埼玉県|生活保護全般

 

3 自己破産と生活保護の関係

関係性・繋がりをイメージした画像

 自己破産と生活保護は、どちらも経済的に困窮した人々を支援するための制度ですが、その目的と仕組みは異なります。自己破産は、借金返済の免除を目的とした法的な手続(過去の負債の清算)であり、生活保護は、最低限度の生活を保障するための公的扶助制度(将来の生活の保障)です。

 

3-1. 自己破産すると生活保護を受けられないのか

 自己破産をしたからといって、生活保護の受給資格がなくなるわけではありません。自己破産は借金の返済義務を免除する制度であり、生活保護は最低限の生活を保障する制度です。両者は異なる目的で設けられているため、自己破産を直接的な理由として生活保護の申請が拒否されることはありません。

 

3-2. 生活保護を受けながら自己破産できるのか

 生活保護を受けている状態でも自己破産を申し立てることは可能です。ただし、自己破産の申立には裁判所へ納める費用や弁護士費用がかかるため、生活保護受給者が自己負担するのは難しいケースが多いです。その場合は、法テラスの弁護士費用等の立替制度を利用するとよいでしょう。生活保護受給者の場合、弁護士費用の支払いが猶予され(支払いを待ってくれる)、最終的に免除してもらえる可能性があります。詳細は法テラスのホームページをご覧ください。

 

参考 日本支援センター 法テラス|無料法律相談・弁護士等費用の立替

 

4 自己破産と生活保護に関するQ&A

よくある質問のイメージ

Q1 自己破産と生活保護、どちらを先に申請すべきすか?

A1 どちらが先でも問題はありませんが、生活保護の申請を先に(もしくは同時に)行うことをおすすめします。
 生活保護を検討されている場合、資産や収入が少なく困っている方が大半でしょうから、弁護士に自己破産を依頼する際は法テラスを利用するケースが多いでしょう。
 
 自己破産に限らずに法テラスを利用して事件処理を弁護士に依頼する場合、弁護士費用を立て替えてもらうことができます。生活保護受給者が自己破産する場合には、法テラスに立て替えてもらった弁護士費用の支払いは猶予、つまり待ってもらうこともできます。さらに、裁判所に納める官報公告費用も法テラスが立て替えてくれます。管財事件となった場合の引継予納金(最低20万円)も審査の上で立て替えてもらうことが可能です。
 
 一方、生活保護を受給していない場合は、官報公告費用、管財事件の引継予納金(最低20万円)は通常自己負担となります。法テラスへ弁護士費用の分割払いも開始されます。
 
 つまり、生活保護を受給してから自己破産を申し立てる場合の方が、弁護士費用、官報公告費用、管財事件引継予納金の3つの費用の支払いの点でメリットがあるのです。
 
 自己破産と生活保護双方を予定している場合は、先に(もしくは同時に)生活保護の申請することをおすすめします。

 

Q2 生活保護費で借金の返済をしてもよいですか?

A2 生活保護費は、最低限度の生活を維持するために支給されるものであり、借金の返済に充てることはできません。生活保護費は、生活扶助、住宅扶助、医療扶助など8種類の扶助があり、それぞれ用途が定められています。

 

Q3. 自己破産の申立をする際の費用(弁護士費用)がありません。何か方法はありますか?

A3 自己破産の手続を弁護士に依頼する場合、費用が心配になる方が多いと思います。生活保護受給中の方、これから生活保護の申請を予定している方は法テラスの立替金制度を利用するとよいでしょう。
 
 法テラスを利用して自己破産の相談を希望する場合、お近くの法テラスの事務所*を利用する方法と、法テラスに登録している弁護士の事務所へ直接相談する方法の2通りあります。全ての弁護士が法テラスに登録しているわけではないので、弁護士の事務所へ直接相談に行く場合は、事前に法テラスを利用できるか確認してみましょう。
 
*埼玉県にある法テラスの事務所等は次のとおりです。
法テラス事務所(さいたま市、川越市)、相談場所(越谷市、熊谷市)

 

Q4. 自己破産の手続中に生活保護を申請できますか?

A4 自己破産の手続中でも生活保護を申請することは可能です。生活に困窮している場合は、福祉事務所に相談してみましょう。

 

5 自己破産と生活保護の手続方法

 自己破産の申立をするには、裁判所へ申立書を提出する必要があります。申立書には、借金の状況や財産、破産に至る経緯などを詳しく記載する必要があります。必要書類も多く複雑な手続となるため、弁護士や司法書士に依頼するのが一般的です。弁護士に依頼すると、申立書の作成や裁判所とのやり取りは弁護士が行います。

 

自己破産の流れ

 

 生活保護の受給を希望する場合は、まずお住まいの地域の福祉事務所に相談しましょう。
 生活保護の申請には申請書を提出する必要があります。福祉事務所は、提出された申請書や聞き取り調査等をもとに、生活保護の受給資格を審査します。審査に通ると、生活保護費が支給されます。原則として申請日から14日以内(調査に日時を要する特別な理由がある場合は最長30日)に審査の結果が出ます。

 

参考 厚生労働省|生活保護制度に関するQ&A

 

6 自己破産後の生活再建

前を向く女性

 自己破産は、借金問題を解決するための有効な手段ですが、その後の生活再建も重要な課題です。生活保護を受給しながら生活再建を目指す場合、まずは生活設計を立てることが大切です。収入と支出を把握し、無駄な出費を抑えることで、生活の安定を図ります。また、就労支援など各種制度を活用することで、就職やスキルアップを目指すことも可能です。
 
 自己破産をすると、信用情報機関にその情報が登録されるため、新たな借入れやクレジットカードの利用ができなくなります。一定期間が経過すると削除されますが、それまでの間は基本的に現金でやりくりすることになります。
 
 自己破産後の生活は、決して楽ではないかもしれませんが、適切な支援制度を活用し、計画的に生活を送ることで、必ず再建できます。一人で悩まず、専門家のサポートを受けながら、前向きに生活再建に取り組みましょう。

 

まとめ

 自己破産と生活保護は、経済的な困難に直面した人々にとって、生活を立て直すための重要な選択肢です。それぞれの制度を正しく理解し、ご自身の状況に合わせて適切に活用することで、新たなスタートを切ることができます。
 もし、借金や生活費のことで悩んでいるなら、一人で抱え込まずに、弁護士やケースワーカーなどの専門家に相談してみてください。専門家は、あなたの状況に合わせたアドバイスやサポートを提供してくれるでしょう。

 

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この記事の監修者

弁護士 黒澤 洋介

注力分野:管財事件、個人破産、個人再生(個人再生委員含む)

弁護士 黒澤洋介

茨城県出身。横浜国立大学法科大学院卒業。埼玉弁護士会所属。

コメント:
近年は、裁判所から選任される破産管財人としての職務も多く、多方面で経験を積んでいます。法人破産などの中・大規模案件は所内でチームを作り、複数名の体制で対応することも可能です。まずはご相談ください。